景色

 

眺めのイイ場所、から街とか川とかその向こうの山々、とか見てると「あーこの中のどこにも俺は行かねぇんだな」って毎回脊髄反射でそう思う。いやどこにもってのは大げさで、来た道をまた引き返す、その道だけは行く、足で踏むわけだけど、でもまぁそれだけだな、みたいな。

 

それはあれだ、GTAとかあれ系のオープンワールドのゲームやってて、おーすげぇ広いとか思って、でも別に実際そこまでマップのあちこち行くわけじゃない、まったりドライブしようとか思ってもすぐ飽きる、やめちまう、結局実質ほとんどどこにも行ってねぇよ、ってのとまったく同じ話で、そういう意味でなら自分にとってゲームと現実はかなり等価で、同じリアリティで、なんつーか、ゲームって結構すげぇな、みたいな、陳腐なこの現実と五十歩百歩って意味ですげぇな、みたいな。

 

そういやGTAがまさにそうだけど、あの手のオープンワールドのゲームはよく「ハリボテ」、要はマップ自体は無駄に広いくせにほとんどの建物は入れねぇ、的なことをよく批判されたりしてて、それは確かにそうだけど、でもまぁ、実際現実でもそんなあれこれ家とかビルとか店の中なんて入らねぇよな、一生のうちで開けるドアの数なんてたかが知れてるよな、そう思えば、現実の目に見える風景だってハリボテみたいなもんだよな、だからまぁ、それならもう、ハリボテこそが写実的、この現実をきっちり模してるってことかもな、ならこれでいいよもう、みたいな。行けよ、そのまま。

 

 

トラック

 

夜中、部屋の窓開けて寝てると、ときどき遠くの方でトラックの音、トラックが国道を通り過ぎてく音が聞こえるのがちょっといい感じだ。っつーかトラックの運転手にちょっと憧れてる。運転下手すぎて絶対なれねぇけど。

 

GTA5で主人公(トレバー)が「トラックドライバーはこの国(アメリカ)の神話だ」とか言ってて、意味は分からんけどいい台詞だな、分かんねぇけどそうだよなって思った。神話。その文脈での、日本の神話はなんだろうな。コメ農家? コンビニバイト? ラーメン屋、とかかな。分かんねぇけど。

 

そろそろ青森も暑くなってきてて、そろそろ夜も窓閉めてエアコンつけて寝る頃合いって感じで、しばらくトラックの音とはお別れ、すかね。まぁエアコンの音もそれはそれでそれなりの風情が。

 

 

ボルヘス(デカルト)

 

わたしは地上で唯一の人間である。おそらく、地上も人間も存在しないのだろう。

おそらく、ある神がわたしを欺いているのだろう。

おそらく、ある神が罰として時を、あの大きな幻影をわたしに与えたのだ。

わたしは月を夢みる。月を捉えるわたしの眼を夢みる。

わたしは最初の日の夕べと朝を夢みた。

わたしはカルタゴカルタゴを却掠した軍団を夢みた。

わたしはルーカーヌスを夢みた。

わたしはゴルゴタの丘とローマの十字架を夢みた。

わたしは幾何学を夢みた。

わたしは点と線、平面と体積を夢みた。

わたしは黃と青と赤を夢みた。

わたしは虚弱な少年時代を夢みた。

わたしは地図と王国、あの夜明けの決闘を夢みた。

わたしは想像を絶する苦痛を夢みた。

わたしは剣を夢みた。

わたしはボヘミアエリザベートを夢みた。

わたしは疑念と確信を夢みた。

わたしは昨日という日を夢みた。

おそらく、わたしに昨日はなく、おそらく、わたしはまだ生まれていない。

おそらく、わたしは夢みたと夢みている。

わたしは少し寒気がする。少し不安である。

ダニューブ河に夜が訪れている。

わたしはデカルトを、彼の両親の信頼を夢み続けることにしよう。

ーー「デカルト」(『ボルヘス詩集』)

 

 

高卒と大卒と頭文字D

 

最近仕事帰りの電車で毎日頭文字Dのアニメ見てる。それだけが唯一の楽しみって感じで、でもあと2、3日で見終わりそうなんだよな。ヤバい、次のアニメ探さねーと、みたいな。

 

頭文字Dで結構イイなって思うのは、主人公が高校出て地元の運送屋に就職するってトコだ。そんで付き合ってたカノジョが上京して別れる、みたいな。主人公は地元で働きながらプロのレーサー目指してて、それはそれですごい頑張っててその界隈で頭角現してんだけど、まぁそれはそれとして、現状は実家暮らしで凡庸な労働者で週末に峠でクルマ走らせてる若いにーちゃん、って感じの、まぁ、俯瞰で見りゃどこにでもありそうな田舎のしょぼい若者の生活、みたいな。そういう見方でも結構面白いぜこの作品、みたいな。

 

作品の序盤、高校生だったときの主人公が「早く卒業して働きたい、自分で金稼いでないうちは何をどうしたってガキで惨めだ」的なこと言ってて、その台詞も妙にリアル感あるっつーか、現実で大学とか行かないで高校出て即働いてるヤツらの感性なんだろうな、みたいな。まぁ普通に大学に行くヤツにもそういう「働いてないうちはガキだ」的な感覚は、そりゃある程度はあるっちゃあるけど、でも高卒で就職って進路選ぶようなヤツらはそれがもっとヒリヒリ神経に刺さってるっつーか、自分の小・中学の頃の、大学行かなかった知り合い、あいつらなんかも、「ガキでいることの焦り」みたいなもんを、俺とか鈍感なヤツよりはるかに真に迫って日々感じてたんだろうな、みたいな。ってか大学行くか行かないかなんてその違いでしかないんじゃねぇか、要は自分が「ガキ」ってことにどの程度不感症でいれるか、みたいな。

 

どうせこの先何十年も働かなきゃならないんだから4、5年ぐらいモラトリアム延ばしてもいい、どこでもいいから誰でも全員、とりあえず大学ぐらい行っときゃいい、とかなんとか、昔も今も個人的にはそう思ってるけど、でもその考え自体がなんつーかちゃちなモノで、たかが数年、働かなくていいからってそれがなんだってんだ、そんなちんけな「猶予」にすがってもしょうがねぇ、しょうもねぇよ、――みたいな、18、19で働いてるヤツらはそう思ってんのかもな。ある種の「投げやり」っつーか、要は五十歩百歩だろ、だったら百歩歩くよ、どうでもいいわ、みたいな。「ガキ」がどうこうって話よりそういう感性なのかもな、もしかしたら。どうでもいいわ、手取りも残業も有給消化率も、何もかも、みたいな。

 

 

4630万円の男

 

阿武町の4630万円の事件、おもしれーって感じでニュースとか見てる。まぁなんつーか、そりゃ返したくないよな、金、みたいな。結構あの若いあんちゃんに感情移入してニュース見てる。

 

今んとこ一番ドラマチックなのは、役場のヒトに連れられて返金の手続きに行って、でも銀行の目の前で「今日はやめとく」とか言って引き返したシーン(?)だな。多分いろんなこと考えただろうな。考えたっつーか、アタマのナカ、ばーっと感情が巡り散らしてたんだろうな、みたいな。なかなか体験できないよな、俺とかみたいなその辺の人間100人束になっても敵わんイベントだよな、みたいな。

 

多分すげぇ理不尽って思っただろうな。いきなり4600万とか大金振り込まれて、そんなもん、ヒトひとりひとりのしょぼい人生からしたら奇跡そのものでしかなくて、で、そしたら次はその金ミスで送っちゃっただけなんで返してくださいとかなんとかせっつかれて、なんだよこれ、みたいな。頼んでもない奇跡が転がり込んできて、そんでその奇跡はお前のモノじゃない、これは奇跡でもなんでもない、さっさとよこせ、とかなんとか、土足で自分のトコにずけずけ上がり込まれた気分、みたいな。そんなこと言う権利あるのか? そんなふうにこの奇跡を潰すのが、この奇跡を「ただの事務処理ミス」ってふうに貶めちまうことが許されんのか? というかたかだか4600万円の送り間違いなんてちっぽけな奇跡すら許容しない世界ってのはいったいなんだ? たまたま誰かが脈絡もなく数千万、数億って金を手に入れちまう、そのぐらいの「夢」があったっていいだろ、奇跡を奇跡のままほっとけよ、4600万なんて町の年間予算の100分の1とかのはした金だろ? 税金の100分の1使って「夢」を見せたと思えよ、たまたま夢が、俺のトコにやってきただけだって、そういうふうにしときゃいいじゃねぇか、こんなちんけな夢さえ後出しジャンケンで殺すのか? どうかしてるぜ、みたいな。

 

で、個人的に、被告の若いあんちゃんに対してと同じくらい、間違って振り込んだ役場の若いあんちゃんにも感情移入してる。そりゃまぁ、間違うことぐらいあるよな、みたいな。なんつーか、あの4600万を大騒ぎして取り返そうとすんのは逆にその職員を追い詰めることになるんじゃねぇの、的な。役場に苦情の電話バシバシ入ってるらしいけど、4600万ごときでそんなプレッシャーかけなくていいだろ、たまたま「うっかり」が4600万の間違いになったってだけだ、それが46000円でも46円とかでもないのは確率の問題ってだけだ、ってかどうでもいいだろ、いつか自分の通帳にも奇跡的に4600万振り込まれるかもって「夢」への投資と思えばいいんじゃね? みたいな。そのぐらいに思えれば、役場のその若い職員がそんな感じに思ってこれからも普通に働ければな、みたいな。いや別に辞めてもいいけどな、4600万ごときでクレーム入れてくる田吾作どもの限界集落の役場なんかよ。

 

 

ニワトリを殺した

 

今月2回、「バイト」、ってか「残業」でニワトリを殺してきた。ただの事務員、が大量に駆り出されて、鳥インフルエンザのとばっちり、ブロイラーを大量に殺してきた。

 

いや殺せなかった。ヘタレ、チキンの自分は生きたニワトリを捕まえるのもガスを吸わせて殺すのも無理で、そんなもんはヒト任せにして、バケツの中、ニワトリの死骸を延々ゴミ袋に詰め替えてた。まぁそれすらも個人的には「お、おう」みたいな感じで結構キツかったけど。人生で一番イヤな筋肉痛だったかもな、みたいな。

 

現場、死骸からは糞尿のニオイがしてて、まぁそれはそうだよなって感じだけどそのニオイに混じってときどき鶏がらスープのニオイ、え、ラーメン屋っすか、的なニオイがしてて、でもあとから他のヒトに訊いたらいまいちな反応で首かしげられて、え、俺だけかよ、気のせいかよ、みたいな感じで、ショボン(´・ω・`)、みたいな。まぁでも、錯覚にしてもどうにも間の抜けた幻覚っつーか、いまいちドラマチックじゃないよな、ひとりだけ鶏がらスープのニオイ感じてましたとか言われてもな、みたいな、それもひっくるめて(´・ω・`)、って感じで、まぁ分かったのは、自分には確実に畜産業は無理だわ、みたいな。しんどいわ。

 

豚インフルで出動、とかなったらマジで逃げ出すかもな。人事課に辞表出して。いやそんな度胸もないか。ってかそんな比較も失礼か、ブロイラーに。

 

 

野球と賃労働者

 

今月から久々に、5、6年ぶりぐらいに就職して働いてる。思ってたよりしんどいなこれ。別に普通の事務仕事、なんだけど思ってる以上に使えねぇな自分、みたいな。通勤電車、1時間ぐらい乗るけどまぁ漫画読んだりスマホでゲームでもやってりゃいいよな、とか思ってたけど行きも帰りもほとんどそんな気分になんねぇなこれ。口半開きで車窓の外の流れてく景色ぼーっと見続けてて、まぁ視力はちょっと良くなるかもな、みたいな。

 

そんで家に帰って晩メシのときはテレビ、ほぼ100パー野球中継点けてるな。ニュースとかすら見る気にならん、ウクライナも知らん、みたいな、野球中継のあのだらっとした雰囲気、あの変わり映えのないアングルだけがかろうじて脳への「許容範囲」だぜ、みたいな、ほんとにベタなおっさんっつーか、ってかやっと野球中継とサラリーマンってモノの取り合わせ、その「相性」の良さがピンときたっつーか、ってかマジで、ヒトと喋るのって死ぬほど疲れるなこれ。この2週間でもう今までの5、6年分以上喋った気がする。一生分ぐらいの電話、かけたって気分になってる。1日300回ぐらいすいませんって言ってるな。よく分かんねぇなもう、なにがなんだか。だりぃな。