ボルヘス(デカルト)

 

わたしは地上で唯一の人間である。おそらく、地上も人間も存在しないのだろう。

おそらく、ある神がわたしを欺いているのだろう。

おそらく、ある神が罰として時を、あの大きな幻影をわたしに与えたのだ。

わたしは月を夢みる。月を捉えるわたしの眼を夢みる。

わたしは最初の日の夕べと朝を夢みた。

わたしはカルタゴカルタゴを却掠した軍団を夢みた。

わたしはルーカーヌスを夢みた。

わたしはゴルゴタの丘とローマの十字架を夢みた。

わたしは幾何学を夢みた。

わたしは点と線、平面と体積を夢みた。

わたしは黃と青と赤を夢みた。

わたしは虚弱な少年時代を夢みた。

わたしは地図と王国、あの夜明けの決闘を夢みた。

わたしは想像を絶する苦痛を夢みた。

わたしは剣を夢みた。

わたしはボヘミアエリザベートを夢みた。

わたしは疑念と確信を夢みた。

わたしは昨日という日を夢みた。

おそらく、わたしに昨日はなく、おそらく、わたしはまだ生まれていない。

おそらく、わたしは夢みたと夢みている。

わたしは少し寒気がする。少し不安である。

ダニューブ河に夜が訪れている。

わたしはデカルトを、彼の両親の信頼を夢み続けることにしよう。

ーー「デカルト」(『ボルヘス詩集』)