「なんだかあんた、前よりちょっとだけ、よくなった気がするよ」
俺がわたした3万円入りの茶封筒を、とても大切そうにナイロン製の手さげ袋にしまいながら、おふくろはいいました。
「そうなの?」
「ほんのちょっとだけどね」
俺が期待しすぎると困るとでもおもったのかおふくろは、
「ちょっとだけ、キモくなくなったかもしれないよ」
「そっか。それならよかった」
しばらくしてから俺はいいました。
「もしかして、彼女とかできたりするかな?」
「いまさら?」
「ああまぁ、そうだよね。いまさらだよね」
「あんたに彼女さんができたら、あたしもうれしいよ」
おふくろがそういうのを聞いて俺は、そうか、やっぱりうれしいものなんだな、とおもいました。だったら俺も、うれしいとおもうのかもしれないな、と。
「けどね、あたしの3万がどうなっちゃうか、それだけは心配だよ」
そういって、おふくろは、アパートをでて、色あせた赤い軽自動車にのり込みました。
――『パーミション』(岡崎祥久)