『前世の記憶の少女』。THE PINBALLSってバンドの古川貴之ってフロントマンが書いて、CDの特典で付けた短編小説で、めっちゃイイ。

「夢」が話のテーマになってて、作品内の次元だとそれは寝てるときに見る夢の話で、けどまぁ、現実の次元、ってか読む側には願いごととか希望とかって意味での夢を指してる、ってふうに書かれてて、ラスト、その「夢」に対して、なんつーか、「意味づけ」がされる。

 

「夢が朽ちていく事が我々には必要なんです」

 と光の影が言った

「あなたがたの朽ちた夢を混ぜあわせて我々は化合物をつくります」

 

「本当に必要なのはイメージを取り出されたゴミの方だったんです

技師にそれを集めさせて発信させていました

技師はその為に生まれたのです

彼はそうとは知りませんが

その夢を集めてわたしたちに届けるのが彼の使命なのです

生まれる前に白い馬だったあなたの朽ちた夢で

我々は故郷に帰ることができます」

と光の影は続けた

 

「(…)あなたの白い翼の夢がちぎれる事が我々の求めていた答えでした。

 (…)朽ちた翼が発酵したもの

 それこそが我々が探していた原料だったのです」

 

「さようなら

 わたしたちはようやくこれで先へ進む事ができます

 ありがとう さようなら」

 

要するに叶えられずに散っていった夢、「朽ち」て「ゴミ」になった夢は、だけどどっかで、全然知らないトコで、知らない誰かの役に立ってましたって話で、まぁ要するに、お前は野球選手になれなかったしお前はミュージシャンになれなかったしお前は物書きになれなかったしお前は好きなヒトと一緒にはなれなかったけど、でもまぁその夢見たことはお前と無関係な別の次元で誰かを救いました、だからお前が何かを夢見たこと、それは無駄じゃありませんでした、的な話、メッセージ、みたいな。

 

これの何がイイかっつーと、自分の叶わなかった夢こそが見返りなし、完璧な贈与として完璧な赤の他人を救う、ってふうに、終わった夢に意味を与えてくれる、そんなふうに、うまくやれなかった俺ら負け犬どもの傷口を舐めて慰めてくれるシナリオ、発想だってこと、で、そんで、だけど同時に、誰のモノでもない、自分にとって思い入れマックスで自分の中で、っつーかこの世でたったひとり自分だけが憶えてる、自分だけが引きずり続けてるその「叶わなかった夢」ってのが、そのはずだったのに、それにさえも外部から「意味」ってモノが付けられるのか、誰かの役に立っちまう、使われちまうのか、要するに自分だけのモノじゃいられないのか、みたいな、そういう悲しさ、そういう感情が、読んでてブワッと引き出されるってのが最高にイイ。自分の切実なモノに「意味」を与えられて喜んでる自分と、その切実なモノを「意味」で世界に接続したくない、それは自分以外の誰からも忘れられたまま、何の意味もないまま、そのままそっとしといてくれ、みたいに思う自分の板挟み、みたいな。そういうふうにこっちの感傷を揺らしてくる、勘弁、みたいな。

 

  

 

そんでまぁ、この短編小説の元ネタ、ってかオリジナルの曲、「ミリオンダラーベイビー」の歌詞は、要は「お前だけのモノなんかこの世には存在しないけど、でもお前はその100番煎じのそれをお前だけのモノだと思っていい」的な内容になってる。

 

僕がつぎこんだ歌も魂もふりそそぐ雨も見返りの金も

君を愛した心の形すら誰かと誰かに似てる

 

でも春雨告げる風の中で踊るお前を思い出せる

春時雨ゆく時の中で何もなかったように