アメリカ

 

「19世紀末にアメリカ旅行をしたイギリス知識人の話が伝わっている。その知識人は、汽車の窓から目にした町の名前、トマスビル、リチャーズビル、ハリーズビル、メアリーズビル、等々、の単調さと想像力のなさにぞっとしたという。彼は自分が目にしているものの意味、つまり、歴史上初めて大衆、ただのトムやディックやハリーが町を建設し、自分や妻の名をとって命名したことに、勘づきもしなかったのである」

 

「ある駅で乗り込んだひとりのアイルランド系老婦人がその知識人の隣に座り、彼が口の中でブツブツ呟いているのを耳にして、「この国は神に祝福された国ですよ。神が貧乏人のためにこさえたんだと思います」と言ったという」

 

――『初めのこと今のこと』(エリック・ホッファー