清掃(2)

 

おととし、丸1年大学で清掃のバイトをしてた。自分の出身の大学だった。

 

朝の6時から9時か10時ぐらいまで、って感じのバイトで、けっこう時給が良くて、割と家からも近くてイイ感じの仕事だった。何より内容が楽だった。完璧なルーチンワークで何も考えなくても手足が動いて仕事をこなせてた。一生これでもいいと思った。まぁ年度末に清掃会社と大学の契約が切れて俺もほっぽり出されたんだけど…。

 

雰囲気も良かった。夜明けの大学、キャンパスはでかくて静かで得した感があった。ヒトのいない、がらがらのその場所で黙々とモップをかけてる、テーブルを拭いてるってのはイイ意味で非人間的、ロンサムな機械って感じでうまいこと感傷に浸れた。感傷に浸ってるうちに気づけばその日の掃除は終わってた。その繰り返しだった。

 

掃除が終わって道具を片づけてる頃になると学生がぞろぞろ登校し始めてて、キャンパスが賑わい始めてて、それをぼーっと見てると懐かしいとか若くて羨ましいとか妬けるとか頑張れよとか失敗しろとかうわあの娘キレイだなとか就活しくじれとかお前ガリガリじゃねぇかもっと食えよとか、いろいろ感想がアタマに浮かんできて、でもトータルすると別に何も考えたことにならない、何も思ったことにならねぇ、みたいな感じで、着替えて、タイムカード押して、じゃ帰るわ、みたいな。

 

強いて言えばでもまぁトータルではやっぱ懐かしいわって思ってた、みたいな感じで、そんで、懐かしいと思ってるこの「今」の俺を何年か後には懐かしく思い出したりしてんだろうな、とか思ってて、確かにこれを書いてる今、実際そんな感じになってて、で、そういう今この俺からすると大学の頃の俺はもう直接には思い出せない、おととしの、大学で掃除機をかけてた俺の記憶を介してしか思い出せない、1枚フィルターのかかった何かになってて、別の言い方をすると「孫」、みたいな。孫にダイレクトで触るのは無理だわ、子(=親)を通してじゃないと無理だわ、もしくはお小遣い的なもんの助け、エサがないと付き合ってもらえないわ、みたいな。そこそこ遠いぜ。